　挨拶もそこそこに、かおる子から渡された温泉MENUを広げ、私は過去に一度も選んだ事のない
「ジャングルコース」を指さした。
このコースは、ヒノキの風呂桶で川を下りジャングルを探検してエスコート役の女の子を
救い出すと云うシチュエーションなのだ。
　過去に何度か挑戦したい欲望にかられたが、今まで蛇と蛭が嫌いで避けていたのである・・・
今回はかおる子の手前、男の見栄で思い切ってやってみる事にした。

又コースは、ハイテクのCGを使いバーチャル体験できるようにセットされたものであるが、
結構迫力があって、冷汗を大量に掻いた人が脱水症状を起こした事でも有名である。
早速「棺桶」･･･違った「風呂桶」に乗り込んで安全ベルトをする私がいた。

　動き始めてすぐ、原生林に覆われ、大量の濃霧が私の顔を覆う。少し不気味な出足だ！
そして鳥の鳴き声もどこかうつろに聞こえる。又、木の間から猿の目がこちらを伺うように
覗き込んでいる。猿の目に私がどう映っているか気になったが話を先に進めることにする・・

　　　　「何か、ゾクゾクしてくるなあ～」思わず独り言が口をつく・・・

　それもそのはずである、この舞台のセットの中は人工養殖したゴキブリ、ムカデ、蚊、ハエが
ところ狭ましと飛交っているのだから・・・
　やがて「勇」の体の至る所は虫指されで赤く腫れあがっていた。
ここで「オロナイン」を持って来なかった事を悔やんだ・・・
　　　
　すると風呂桶の下からドン、ドンと何かが当たっているような振動を感じた。
風呂桶から身を乗り出して、下の方を見ると何とワニがいるではないか！！
　あれまあ、ご丁寧にワニまで登場させるとは「やけに凝った作り物だなあ～」と思った瞬間
ワニに頭をかぶりつかれてしまった。幸いな事にワニも還暦を過ぎていたいたせか総入歯で
痛くもなかった。･･が、歯槽膿漏のワニだったせいか口臭で鼻が曲がるようであった。
　私の鼻は犬並みで、匂いで相手を識別する能力を持っているのが恨めしかった。
それから暫く川を下っていくと、霧も晴れ視界も少しずつよくなってきた。

　　　　「この辺で、昼にするか！」と胃袋にせかされるように声がでていた・・・

とはいえ、ここはサービス停止地帯なのでセルフサービスで飯を探して食うしかなかった。
ハンバーグの自販機を探してみたが、やっぱりそんなものは無かった。
まあ、仮にあったとしても財布を持っていないので買えるはずもなかった。

　風呂桶にはポケット型核燃料が備え付けられていてエネルギーには不自由しないが・・・
最近わき腹にムダな脂肪がつき始めてきたので、肉は暫くご法度である。
では魚がいいかと云うとそうでもない、小さい時に喉に鯛の骨を刺しそれ以来食べられなくなった。
　唯一食べられるのは、刺身だけである。
仕方がないので、今回は昼飯抜きで愛しのかおる子の救出に向う事にした。

　しかしこの事が後で、重要な意味を持つことになるのである・・・